今になってみると、自分でもあれは編されたのだな、ということはわかる。 しかし、少なくともそのときは、本気で英語の勉強をしようと思ったわけで、こんな私を決意させたことは、それなりに評価しても良いのではないだろうか、と思う。
許せないというほどでは全然ない。 いわゆる、少し高い授業料だっただけだ。
そんなことをつらつらと振り返りながら、お茶をすすっていると、また、T子さんが軽く手を合わせ、なにかを思い出した、という顔をした。 「何ですか?」私は尋ねる。
「ああ、私、すっかり忘れていました。 どうしましょう」どうしましょうと言われても、こうしなさいというようなアドバイスはできない。
事情を説明することが先決だと思われる。 「なにか、大事なことですか?」「昨日のことですけれど、Yさんがいらっしゃったんです」「Yさん?ああ、あの、Y・Yさんですね」。

Y・Yさんは、S・M子さんといつもいっしょの女性で、以前にこの二人のために部屋を探したことがある。 実は、この私の部屋に二人がしばらく住んでいたことがあるのだ。
「はい、Yさんたちも、私たちの結婚のために、あるプレゼントをしたいとおっしゃっていました。 それについては、Mさんの許可ももう得ているので、あとは、Tさんの承諾をいただきたいとのことでした」「承諾というのは?」「よくわかりませんけれど、なにかを作ってこちらへ持ってくるのでしょうか」。
私は部屋の奥にあるコンクリートのオブジェへ視線を向けた。 重くて持ち上がらないが、幸い円形なので転がして移動させているものだ。
腰掛けるくらいの利用法はあるものの、ほかにはなんの役にも立たない。 これがSさんの作品である。
Yさんの方は、作家だったか、やはり芸術的な活動をしている人だ。 「また、あれが来るんじゃないかな」。
私は思わず苦笑いをした。 T子さんも振り返ってコンクリートのお金を見た。
「べつに、かまいませんけどね」私は溜息混じりに言う。 「広いし、それに、大家さんが良いとおっしゃるのなら、問題はないでしょう」「良かった」彼女は両手を胸の前で合わせた。
「でも、皆さん、私たちのことを祝福して下さるのですね。 なんて幸せなんでしょう」ああ、そうか、またもそちらを忘れていた。
コンクリートに気を取られていたためだ。 まるで、堀を埋められていくOみたいな気分である。


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